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最高裁判所第三小法廷 昭和27年(オ)279号 判決 1953年7月22日

栃木県那須郡下江川村大字志鳥一〇二九番地

上告人

鈴木善一

右訴訟代理人弁護士

岡本繁四郎

同県塩谷郡氏家町

被上告人

氏家税務署長 平野吉之助

右当事者間の国税徴収法による差押処分取消請求事件について、東京高等裁判所が昭和二七年三月一八日言渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告申立があつた。よつて当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

論旨は「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律」(昭和二五年五月四日法律一三八号)一号乃至三号のいずれにも該当せず、又同法にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものと認められない。

よって、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井上登 裁判官 島保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)

(参考)

上告人 鈴木善一

被上告人 氏家税務署長

上告代理人岡本繁四郎の上告理由

第一点

原判決には、左の重要な法令の解釈の誤りがある。(最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律)

第一、国税徴収法第十条ノ一の規定には「財産を差押うべし」という表現をとつているが、納税義務者の財産状況及び納税資金の調達の速度と税務官庁の徴税能率ならびに差押換価の難易及び速度とを比較考量して必要ありと認めるときは財産の差押をすることを要し、この意味に於て財産の差押をすることができると解すべきである。しかるに、原審はこの点につき何ら言及するところがなく、単に「控訴人に対しては差押前に好意的文書を以て自発的納税を促し、更に督促状を出して納税を督促していることが認められたので、差押の前提要件を欠いた違法は存しない」と判示した。これ全く立法の趣旨、法の合理的意思を無視した誤つた解釈である。法の解釈適用は、法の合理的意思を探求し法文に拘泥せず、しかも法文に即し、且つ法文の基礎たる社会生活上の事実の認識等、各種の方法によつて科学的になさなければならない。法規の忠実な適用は法規によつて法を正しく見いだし、正しく見いだされた法を適用することによつて正しい裁判が行われる。これが法の解釈の作業である。そこで、本件の差押処分が適法であつたか否やを裏付けるために、まず原審に於て明らかになつた事実を検討する。

(イ) 差押処分は、上告人の再審査の請求を取下させる意図の下に被上告人がなしたること。そのことは、度々上告人を税務署に出頭せしめて再審査の取下を強要したること。

(ロ) さらに、再審査を取下げなければ職権で取下げすると脅したこと。(甲第二ノ一号証)

(ハ) 再審査の請求を被上告人は、一ケ年間も故なく国税局に進達しなかつたこと。

(ニ) 原判決は「税務署長限りで処理したとしても何等違法ではない」と判示しているが、毫も税務署長限りで処理した事実がないこと。

如上の事実によつて見ても、本件差押処分は正当なる職権の行使ではない、全く職権の濫用によるもので、国税徴収法第一〇条の濫用であることけだし明白である。すなわち自由裁量処分ではない。

第二、本件差押処分につき差押の目的物に対する評価せずして、漫然と上告人の全財産を差押え、釘づけとして仕舞つたこと。差押は換価処分が目的であるから、凡そ予め評価をなすべきは差押の要件である。民事訴訟競売法に於ても、差押に当つては評価(見積)を為すことになつている。本件差押処分に当つても見積を要しないという規定はない。この点から見るも職権の濫用である。

以上の事実を無視して、国税徴収法第一〇条に基く本件差押処分を目して適法と解した原判決は違法である。

(忠佐市著、租税要論三八八頁)

よつてこれが破棄を求む。

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